日本におけるデザインの未来 
石川俊祐. KESIKI Partner 元IDEO Tokyo Design Director

by twistdesign
石川俊祐

PR QAIS

2019年、デザイン思考のアプローチを通じて、愛されるカルチャーやエクスペリエンス、そしてそれを生み出す企業をデザインすることを掲げ、株式会社 KESIKIを立ち上げた石川俊祐さん。クリエイティブ最先端の国、イギリスでデザインを学び、デザインコンサルティングファームIDEO の東京オフィス立ち上げ時期に参画するなど、海外の経験を生かし国内で活躍の場を広げてきました。海外と日本、分野を超えた幅広いプロジェクトに数多く携わるなかで、日本こそデザイン思考のポテンシャルを秘めた国だと確信したと言います。デザインの力を信じ、「日本から世界へ」という強いパッションとともにデザイン思考を広めてきた石川さんに、日本人にとってのデザイン思考と、今後の日本におけるデザインの未来についてお話を伺いました。

―今後の日本のデザインについて教えてください。石川さんは、日本にはまだまだのびしろがあるとおっしゃっていますね。

そうですね、僕はずっとそう信じています。日本人の根底には、他者を思いやる心があって、利他的な想像力に優れています。例えば、「空気を読む」という言葉なんかが、よくそれをあらわしていますよね。日本人は、空気を読むのがすごく得意。これを言ったら相手を傷つけるんだろうなと色々考えて、結局何も言わない…なんてことは、日々よくある話でしょう。「空気を読んで引き下がる」という意味合いで、ネガティブな使われ方をしてしまっていますが、他者の気持ちを推しはかる想像力に長けているからこその同調圧力とも言えます。でもせっかくなら、その気遣いをもっと別の形で活かしたほうがよいですよね。違ったコミュニケーションの仕方をすることで何かよい変化が生まれるかもしれないし、物事がよりハッピーな方向に好転するかもしれない。日本人は、もったいないおもんぱかり方をしているなと僕はいつも思っています。

これは限定的な場面においてだけではなくて、日本全体ひっくるめても同じ傾向があると言えるでしょう。他者を傷つけてはいけないという気遣いばかりが先行して、本来の目指すべきゴールが見えなくなっている。もちろん、他者のことを思いやって気遣うことはとても大事なことですし、デザイン思考というのは人に対する気遣いからスタートするものです。でも、日本的な「空気を読む」気遣いというのと、デザイン思考で求められる気遣いとでは、エネルギーの使いどころが違うんですね。前者は気遣うことそのことにエネルギーを消耗してしまうけれど、後者は気遣いを何かを生み出すところに活かす。自分を抑え込むのではなく、自分なりの問いにきちんと落とし込んで新しい想起に結び付ける。気遣いから生まれた問いに立ち返ることができれば、あとは問いに対して自分なりの仮説を立て、実験のために形に起こして作ってみる…と、デザイン思考のプロセスにつなげられます。日本には、利他の精神のほかにも自然を敬い人を愛する文化がありますし、日本人は素直で、敬虔で、真面目。そしてどこかスピリチュアルというか、独特の思考法を持っていたりもする。他者を思いやる豊かな想像力や、日本人ならではの感性をデザインに活かすことで、可能性は無限に広がっていくはずなんです。

―具体的に、どうすればより創造的になれるのでしょうか。

個人ができることは主に2つ。まず1つ目は自信を持つこと。自分たちが利他的であることとか、実は想像力に富んだクリエイティブなマインドを持っているとか、すでに備わっているからこそ意外と自分では気づかないということが多いんですよね。でも、本質的に僕たち日本人はデザイン思考に最適な気質を持っているんです。何が足りないかと言うと、やっぱり自信です。どうも、海外から来るもののほうが正しい、より素晴らしいという思い込みが植え付けられている気がしていて。日本から世界に対して、もっと何か新しいモノやサービス、考え方などを発信していくためには、その誤解を正して自信を取り戻す必要があります。

2つ目は、実際にアクションを起こしてみることです。先ほどの空気を読む話なんかは、別にデザイナーだけのことでなくて、日本人みんなが得意過ぎるくらい得意と言える。その想像力を何かをしないために使うのではなくて、もう一歩踏み込んで、実行に移す原動力として活かして欲しい。「それって、こういう風にしたらもっとよくなるんじゃない?」と実際にコミュニケートする。批判を恐れずに、実際に働きかけてみることが大事です。

自信を持って、アクションを起こす。これができて来ると、みんながもっと自分なりに世の中をよくしていこうと考えはじめるようになります。主体性を持って、自分事化して世の中を見ることができる。そうすれば、新しいものを生み出そうというポジティブな風潮が自然と生まれてくるのではないでしょうか。

―社会における自社の役割を改めて見つめ直し、新しい取り組みにチャレンジしようとしている企業も増えてきています。本サイトをプロデュースしているGUMの歯磨きで有名なサンスターが、『「お口」「カラダ」だけではなく、「生活空間」から健康に。』というテーマを掲げ、『カラダがよろこぶ空気。』をコンセプトとした脱臭除菌システム『QAIS -air-』を発売しました。こうした取り組みをどう思われますか。

ブランドの展開としては、思い切った新規事業という印象がありますね。新しくてよい取り組みだなと感じました。ブランドストーリーも、ブランドのコアである「空気の脱臭」から発生していて、とても分かりやすい。ニオイの問題を解決することで、誰かが不快な思いをしたり、余計ないさかいを生んだりすることを解決するというのも、シンプルにソリューションを捉えていて面白いなと思いました。

もしグローバルマーケットを意識するのであれば、はじめは企業向けにうまくやっていくのがよいのかなと感じます。病院なのか介護施設なのか分かりませんが、ある程度ねらいを定めたなかで、日本でしっかり実績をつくる。データなど分かりやすい指針があると海外でも受け入れられやすいですね。または、海外で導入できそうなところで海外実績を作ってしまって、逆に日本に持ってくるという方法も1つ。いずれにしても、はじめはターゲットをうまく絞るというのがポイントかもしれません。病院とか介護施設といった、ある意味で極端な環境でうまく使われているもののほうが、家庭に持ち込まれやすかったりする。信頼感がわきやすいんですね。テクノロジーへの信頼や実績を着実に増やしていくというのが、ブランドの筋道としてはいいのかなと思いました。

―グローバル市場の話がありましたが、海外を意識した今後の日本企業のデザイン戦略はどうあるべきだと思われますか。

戦略と言うか、なるべくさっさとやらなければならないことは、デジタルをうまく活用するということですよね。無駄な過去のしがらみに縛られて残っているような、生産性の低い古びたシステムからはいち早く脱却するべき。日本企業のデジタル化への対応は、グローバル企業と比較するとかなり遅れています。このままでは新しいものを発信するどころか、世界から取り残されることにもなりかねない。世界に目を向けて、危機感を持たなければいけません。

それから、前回お伝えした通り、問いの再設定というのが重要です。何か物事をはじめるときに、ただ無意識に行うのではなくて、「そもそもこれってこうしたほうがいいんじゃなかろうか?」という問い自体を、みんなどんどん生み出していくべき。そうやって考え直すきっかけをつくることが、新しい創造の起点になると思うんです。そうしないと物事は大きく変わっていきません。特に大きな組織や企業になるほど、元さやに戻っていこうとする力が大きい。少なくとも、自分がリーダー的な存在である人達、チームや組織をたばねる立場にある人は、特に問いの再設定に対して積極的になって欲しいです。発想する原点の問いがなければ、「元に直していく」というループに陥ってしまいます。日本から世界へ視野を広げようとするときに、今まで通りの固定観念に縛られていては、成功するはずがありません。

余談になりますが、これはビジネス以外の状況においても同じことが言えます。一家庭を取れば夫婦がリーダーかもしれないし、地域をとれば自治体の長かもしれない。国で言えば総理大臣かもしれません。自分なりの問いに向き合うことは、今まで通り従前のかたちを継続するという呪縛から離れるよいチャンスになる。問いの再設定というのは、デザインにおける重要な役割を担っていると僕は強く感じています。

―2020年、新型コロナウイルス感染症のパンデミックにより、私たちの生活は大きく変わりました。今後、世の中はどう変わっていくと思いますか。デザインができることは何でしょうか。

世の中は確実に変わると思いますが、日本がどう変わっていくかについてはいくぶん懐疑的に見ています。日本って、どこか忘れっぽいというか、怒りの持続性が非常に弱い国だと思っていて。今回得た教訓を十分に活かし、よりよい社会に変わっていけるかどうかについては、残念ながらやや不安もあります。

でも、世界的にはよい方向に向かうのではないでしょうか。今までって、何事もメインストリームとサブストリームがあるみたいな考え方だった。ちょうど音楽にメジャーがあってマイナーがあるというのと同じで。でも今回の危機に直面して、色んなマイナーがたくさん存在してもよいよという考え方が広まってきたように思います。いろんな生き方、幸せのあり方がそれぞれに尊重される世界。例えば、都心じゃなくても地方で幸せに生活できるという考え方だったり、輸入に頼らなくても自給自足ってもっとできるよねという気づきだったり。極度のアナログに進む人もいれば、先端テクノロジーにどっぷり浸かる人もいて。極端にどっちがよいか悪いかという議論になりがちだったのが、多くのマイナーを受け入れていこうという世の中に変わっていくんだと思います。それに対して、市民権のあり方や国境の考え方、仕事のやり方など、さまざまなものの境界線がゆるやかになっていく。働き方も住まい方も、生活の価値も変わっていく。

デザインの重要性と掛け算で考えてみたときには、もう一つ大きく変わるものがあります。それは先ほどの、問いの再設定です。希望も込みになりますが、そもそもの問いにちゃんと向き合える人が増えていくんじゃないかな。今回の自粛生活を取ってみても、「そもそも何で会社に行くのか」とか「そもそも週5仕事に行く必要あるのか」とか、働き方について考え直すきっかけになったはず。企業も、本当に人びとや自然にとって価値があるんだろうかという根本的な問いに立ち返らざるを得ない状況に直面している。「何が必要か」「どういうことをしたらいいか」「何を生み出すべきか」という問いを、自分たちなりに思考できるようになっていって欲しいです。

そして、今回の自粛生活のなかで、みんな人間の持つ根源欲求に明確に気づいたと思います。生きていくのに必要な、必需品の大切さを再認識したのと同時に、人の心を豊かにするものの大切さも強く実感した。音楽や花を観賞するとか、自然とたわむれるとか、人と向かい合って話すこととか。そういう需要に応えるために、幅広いニーズに対応する豊かなモノづくりが進んでいくでしょう。デザインの重要性というのは、そういった物事のあり方をアップデートさせられるところにあります。デザイナーができることは、新しい問いに対しての新しい形やあり方をデザインすること。僕は自分のことをクリエイティブだと思っている人はみんなデザイナーだと思っています。自分のクリエイティビティを発揮したい人すべてが、デザイナーとして色んなものを再定義して、何か新しい形に変えていくということができる世の中になるといいですね。

―最後に、いま取り組んでいること、今後チャレンジしたいことを教えてください。

僕のいるKESIKIという会社のミッションとして、「やさしい経済」というのを掲げています。やさしい(=kind)経済を生み出す経済圏というのを作ろうとしていて、それは会社そのものだったり地域を丸ごとデザインすることだったりします。どこからはじまった話かというと、会社が経済合理性を追求して効率化第一で集約され、消費で紐づく形だけで運営されていくことに疑問を感じはじめたことです。それって何の価値を生んでいるんだろう、誰も幸せにならないしただの競争になってしまうよなと。それで、みんなが幸せになれるやさしい経済を作るための第一歩として、愛される会社をたくさんデザインしていこうというところにたどり着いた。社員や従業員が自分の会社を本当に好きであるということがまず一番大事です。会社を愛している人たちがわくわくしながらクリエイティブにモチベーション高く仕事をしていれば、必ずよいものが生まれていくはず。人のモチベーションを高める会社をどうデザインできるかというのをいまやろうとしています。

愛される会社では、会社のデザインとプロダクトのデザインの両輪がスムーズに回りながら両立されなければいけません。そして、会社のなかだけではなくて、関係会社やかかわっている人びとがちゃんと幸せかどうかを指標にしていけるとよいと思っています。愛される会社をたくさんデザインして、それぞれのよい関係性や新しい形の流通を作り、やさしい経済へと発展させるという計画を地域全体を視野に入れてやっていきたい。みんなやりたいことをできている社会、きちんと生活をしていける世の中に、どういう風にしたらできるのか。クリエイティブに取り組んでいきたいですね。

それから、教育のデザインにもかかわろうとしています。これも地域に関係してきますが、どこにいてもきちんとよい教育が受けられる世の中を作っていきたい。質の高い教育を受けるには私立の学費の高い学校に行かなければならないというのではなく、平等に、よい教育をオンラインでも受けられる環境をどう形作るかが課題です。そうすると、住む場所や暮らし方もいまと大きく変わってくるでしょう。

あとは、この国の未来についても考えます。税金を払って当然だと思えるよりよい国にするために、何かクリエイティブな人たちの力でできることってないだろうかと。デザイン経営という文脈を通して何かやれたらなと思っています。これまでお話した通り、こんなアイデアあるよねとか、もうちょっとうまいコミュニケーションの取り方ってあるよねとか、デザインでやれそうなことがたくさんあると思うので。希望を持てて住みやすい国にするために、日本を変えるチャレンジをしたいと思っています。

石川俊祐 1977年生まれ。
英Central Saint Martinsを卒業。Panasonicデザイン社、英PDDなどを経て、IDEO Tokyoの立ち上げに参画。Design Directorとしてイノベーション事業を多数手がける。BCG Digital VenturesにてHead of Designを務めたのち、2019年、KESIKI設立。多摩美術大学TCL特任准教授、CCC新規事業創出アドバイザー、D&ADやGOOD DESIGN AWARDの審査委員なども務める。Forbes Japan「世界を変えるデザイナー39」選出。著書に『HELLO,DESIGN 日本人とデザイン』

KESIKI INC.


HELLO,DESIGN 日本人とデザイン-2019/3/5 石川俊祐 (著)

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