アートで社会に問い、デザインで社会と共有する。
インダストリアルデザイナーで、NPO法人「まもるをまもる」
代表理事の大浦イッセイさん

by twistdesign

本日は、SUNSTARの空間除菌脱臭機「QAIS」のプロダクトデザインを手掛けられた大浦イッセイさんの事務所に伺いお話を伺ってきました。大浦さんは、健康・医療関連のデザインをメインにインダストリアルデザイナーとしての活動をされている一方、NPO法人「まもるをまもる」の代表理事を務められています。大浦イッセイさんのこれまでの仕事のご経歴や、健康・医療関連のデザインに注力されるようになったいきさつ、SUNSTARのデザイン性の高いユニークな空間除菌脱臭機として、現在多くのユーザーから支持を集めている「QAIS」のデザイン秘話、これからのライフスタイルへの考え方など、様々なお話をいただきました。

 

―はじめに、大浦さんの簡単なご経歴と、今どんなお仕事に取り組まれているのかお聞かせいただけるでしょうか?

家業がグラフィック関係の仕事で、幼い頃から強制的にグラフィックや文字のデザインを学んでいましたが、20歳の時に金属アートの世界に飛び込み、26歳の時に金属で巨大な作品を造る金属彫刻家として独立しました。当時からコンピュータCADを使って金属作品の設計や、店舗の設計を行っていましたので、プロダクトデザインの仕事もその範疇にありました。今から思えば金属を使って自分を表現していた頃は、こんな加工や細工は誰にもできないだろう!自分が創った美しい造形はどうだ!といった、社会に対しての自慢や社会への問いで、誰に届けるというものではなく、自分は何者だというアピールをしていたように思います。一方で、店舗設計やプロダクトデザインの仕事は、誰に届けるのか、誰に喜んでもらうのかが決まっていて、そのユーザーと共有できることを考えなければ仕事にならないということで自分のやりたいことが通らないという葛藤がありました。今は、価値を決めて相手を決めてその相手と共有することが「デザイン」、自分が何者で、自分はこんなことができるけど、こんなことがしたいんだけど、みんなはどう思う?といった見えない相手、社会への問いが「アート」であると言語化し、アートとデザインの役割をしっかりと分けています。

アートとデザインを融合した代表作としては、2010年に立ち上げたパーソナルブランドのGreenJacket-Sportsというサングラスブランドがあります。私がサングラスに関わり始めたのは1999年で、サングラスでGood design賞を何度も獲得させていただいたり、日本インダストリアルデザイナー協会の会員になったのも、幅広い分野の方々との出会いもサングラスがきっかけで、今私がこうして活動しているのはサングラスに出会えたおかげだと感謝しています。健康・医療と結びつく仕事を始めるようになったきっかけは、メディカル・ヘルスケアのデザインコンペの審査をさせていただき、医療現場の中にたくさんの課題があることを知った時でした。その時に、医療現場の課題に対して「デザイン」で解決できることがたくさんあると感じました。それからは、どっぷりと「健康・医療×デザイン」というテーマにすっかりハマりましたね。最初に医療現場の課題に取り組んだのがアイガードでした。曇って視界が悪くなること、着け心地が悪いことを素材と形状のデザイン提案を行い製品化しました。医療現場にデザインが関わることでより多くの命が救えたり、命を救う側をまもることができると想い、医療・健康関連のデザインを中心に活動しています。

 

―お仕事を進める上で、特に力を入れているポイントはなんですか?

 

先にもお話ししたように、私が仕事をする上で、デザインとアートの関係は常に意識しています。「社会に問うこと」をアートだと言いましたが、問題かどうかも気づいていない、言語化すらできない、されていない段階でそれらを何かの素材や技法を使って表現することもアートであり、一方で、「可視化された価値を誰と共有するか」をデザインとしていますので、実際のビジネスを進める時には、バリュープロポジションキャンバス(VPC)(※)というフレームワークを使ってゲインとなるところをアートで、ビジネスモデルキャンバス(BMC)(※)というフレームワークを使って可視化し共有するところはデザインとして仕事を進めるようにしています。医療機器の場合は、「使う人(医療従事者)」「使われる人(患者)」「買う人(経営者)」「売る人(ディーラー)」これらの4者がBMCの「誰に」にあたるため、それぞれを満足させるのは難しく、どうしても「使う人」と「買う人」の満足度が優先されて「使われる人(患者)」にとっての満足度が軽視されがちで、「患者中心のデザイン」という医療機器として本来あるべき姿から離れてしまっているのが現状で、そういったことからも、ゲインをしっかりと言語化し、構造の改革も含めたデザインを常に目指しています。

※:VPC:自社の製品やサービスと顧客のニーズとのあいだのずれを解消するためのフレームワーク

※:BMC:顧客に選ばれる、自社で実現が可能な強いビジネスモデルを組み立てていくためのフレームワーク

 

―QAISのデザイン発想の原点について教えていただけますか?

デザインの最初に行う仕事が共感で、これがデザインでは最も重要な原点になります。そのためにまず医療現場の中で悪臭で困っていること、それをどう解決しているのかを医療従事者の方々に集まっていただき、ワークショップを行いました。この情報をもとに、どのような価値を誰と共有するのかを仮説を立てて決めています。QAIS -air -01は、医療・介護の施設での使用用途を考えてデザインしていますので、床に置くのではなく、壁や天井に常設することを想定したデザインとしました。一方で、常設ができない施設や、空間を除菌脱臭したいそれぞれの場所に移動できる移動式も需要があり、別モデルでQAIS -air -02をデザインしています。また、QAIS -air -03に関しては、生活空間での使用用途を考えてデザインしていますので、生活に必要な照明であったり、時計機能であったりを搭載したデザインを提案させていただきました。また、フォルムのデザインについては、サンスター技研さんの背景が高精度な金属加工ですので、筐体をプラスチックではなくハイクオリティな金属製というところに拘っています。QAIS- air -01のデザインであれば、通常はコストの問題で金属板を曲げて筒を作るのですが、QAIS- air -01の筐体は、アルミの大きな押し出し材を別注で成型し、その筒の外径を旋盤加工で切削して造っていただいています。これが、サンスター技研さんのコアバリューを最大に生かした「普通の家電」の類には属さない、造形としての価値を持った商品となっているところで、サンスター技研さんの技術力を広く社会に知ってもらいたいという私の想いが、QAISのフォルムのデザイン発想の原点となっています。

 

―QAISの1番のウリはなんですか?

やはり「カラダがよろこぶ空気」と言えるところですね。金属製であるが故の造形の美しさと、金属製だからこそ菌やウイルスが付着しても、メンテナンスすれば完全に除去できるというところも含め、他社の製品では語れないワードであり、サンスター技研さん独自の光触媒技術と相まって、カラダがよろこぶ空気に菌やウイルスが含まれているわけないでしょ!という私の個人的な想いも含め、「カラダがよろこぶ空気」が1番のウリだと考えています。おそらく、この美しい造形をオール金属に拘って造っている除菌脱臭機は、世の中にSUNSTARさんのこの「QAIS」だけだと思います。他に類をみないこの価値はインテリアとしての価値も高く、機能面からも造形面からも「カラダがよろこぶ」に相応しい製品に仕上がっています。

 

―大浦イッセイさんの今後のライフスタイルへの考え方をお聞かせください。

とにかくこれからも、これまでの失敗や成功の経験を活かして、社会のためになること、次世代のためになることができればと想っています。それが今の生業となっている健康・医療のデザインであったり、守ってくれている人を守るというコンセプトで2018年に法人化したNPO法人の「まもるをまもる」の活動でもあります。今年は、「地域で命を守ってくれている人たちを地域で守ろう!」と言うコンセプトで立ち上げたプロジェクトに取り組んでいます。このように、構造化できていないことを社会に問いかけることも一つのアート活動であり、これからの人生も、社会でまだ構造化されてないことを可視化して問いながら、次時代の構造を構築する一員として、ライフワークとして活動し続けることができればと想っています。

 

大浦イッセイ:

1987年に金属彫刻家、表現家として独立。金属モニュメント、金属オブジェ、空間デザインなどを手がけ、
2002年からはインダストリアルデザインに関わり、現在は、健康・医療関連のデザインを主に手がける。2015年からは、「いのちのためにデザインができること」をソーシャルデザイン活動のドメインとし、医療従事者を守るためのNPOを立ち上げるなど、健康・医療に関わる社会的な活動に尽力している。

https://ja.wikipedia.org/wiki/大浦イッセイ

 

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