ユニバーサルデザインとは
ユニバーサルデザインとは、年齢、性別、障害の有無などの違いがあっても、誰でも不自由なく利用できるデザインや設計のことを指します。
最近では、昔に比べて多くのユニバーサルデザインのものを見かけるようになりました。
そして意外にも身近にあるユニバーサルデザインの例として、牛乳パックがあります。
今回は、牛乳パックのユニバーサルデザインについてご紹介していきます。
牛乳パック・ユニバーサルデザインまとめ①:切り欠き
牛乳パックをよく見ると、上部に小さな”くぼみ”があります。
実は、この”くぼみ”こそがユニバーサルデザインなのです。
正確には、このくぼみのことを”切り欠き”と呼びます。
切り欠きは半径2.5mmの扇のような形をしています。
切り欠きがついている理由は、目が不自由な人でもそれが牛乳だと判断できるようにするためです。
ちなみに、低脂肪乳などの加工乳にはこの切り欠きはついていません。
生乳100%の場合のみ切り欠きはつけられています。
また、切り欠きには、切り欠きのない側が開け口ということも示しています。
なにげない牛乳パックの上部のくぼみには様々な意味があったのです。
切り欠きが出来た経緯
「切り欠き」というユニバーサルデザインが生まれたキッカケは、とあるアンケート調査にありました。
そのアンケートは、農林水産省が1995年に資格障がい者の方54名を対象に実施した「飲み物容器に関する不便さ調査」(E&Cプロジェクトパッケージ識別班)というアンケート調査です。
「飲み物容器に関する不便さ調査」(E&Cプロジェクトパッケージ識別班)(https://www.kyoyohin.org/ja/research/pdf/fubensa_13_drinkcups_1995_4.pdf)
この調査の結果で、以下のような回答があがりました。
Q「あなたが、もっとも不便に感じる容器は?」 → 第一位 「紙パック(35.2%)」
Q「不便に感じる理由は?」 → 第一位 「形や大きさが同じ区別しにくい(約31%)」
第一位に区別の問題が出てきましたが、特に「牛乳とその他の飲料を区別したい」という声が多く挙がりました。
たしかにそれまでは紙パックの飲料はどれも同じような形をしていたので、視覚からの情報でしか判断することが難しいものでした。
特に、中身が区別できないことで、飲みたくないものを開けてしまったという不便さを訴えた回答が多かったようです。
開けるまでは何か分からないので、確かめるには開封するしかありません。
そして、牛乳は消費期限も早い飲み物なので、誤って開けてしまったら早く消費しなければならないため、こういったことも視覚障がい者の方にとってかなり不自由な要素だったのだと考えられます。
こうした経緯で、2001年から目の不自由な人でも牛乳とその他の飲み物を区別できるように切り欠きがつけられるようになったのです。
切り欠きはあくまでも任意表示
ユニバーサルデザインとして有名になった切り欠きですが、実は切り欠きは全ての牛乳についている訳ではありません。
というのも、切り欠きをつけることは義務ではない”任意表示”のため、メーカーごとでついているかついていないかは決まります。
有名どころの大手飲料メーカーの出している牛乳は、切り欠きがついていることが多いです。
一方で、それほど有名でない安価な牛乳などでは、このような切り欠きはついていないこともあります。
そのため、ユニバーサルデザインのパッケージの牛乳を買おうとすると、選択肢がいくらか少なくなってしまいます。
義務表示ではないので仕方ないですが、いずれ全ての牛乳でユニバーサルデザインが適用されることを願ってやみません。
おまけ:こんなところにも「切り欠き」!
牛乳パック以外にも、同じような切り欠きを使ったユニバーサルデザインはあります。
たとえば、交通系ICカード、図書カード、QUOカードなど。
皆さんお持ちのカード類の中でも、もしかしたら切り欠きがついているモノもあるかもしれません。
是非確認してみてください。
牛乳パック・ユニバーサルデザインまとめ②:広口のキャップ
皆さんはこのような広口キャップ式の牛乳パックを見たことがありますか。
実はこれもユニバーサルデザインの一種なんです。
この広口キャップには、様々なメリットがあります。
- 軽い力で回すだけで簡単に開くので、小さなお子さんや高齢者の方など握力の弱い方でも開けやすい。
- 開ける手順が減って手間が軽減。
- 注ぎ口が大きくこぼれにい
- 紙パックのように開けるときに変に破れたり、失敗することがない。
一見良いことだらけのようですが、「これまで紙だけだったものにキャップを付けたら環境的にはどうなの?」と思う方もおられるかもしれません。
実は、その点も安心です。
このパッケージの容器と注ぎ口(ポリエステル)は、紙パックとしてリサイクルにまとめて出すことができます。
また、プラスチックのキャップ部分は通常のペットボトルのリサイクルなどと同様に分別することができます。
しかし、この環境にも人にも優しい広口キャップは現時点では特定の種類の牛乳にしかありません。
より多くの牛乳に取り入れてもらいたいデザインですが、メーカー側からするとコスト面などでハードルが高いのかもしれません。
その他のパッケージへの工夫
ユニバーサルデザインではないのですが、「常温保存可能品」の牛乳パックも最近は増えてきました。
通常、牛乳は消費期限も早く、また保存の際は冷蔵庫に入れることが必須でしたが、この「常温保存可能品」はその名の通り、常温で保存できるため冷蔵庫に入れる必要がありません。
パッケージに特殊な加工が施されており、光や空気を通さないため、開封するまでは常温でも保存できるようになったモノです。
日々、牛乳パックも進化しているのですね。
牛乳パックのユニバーサルデザインについてまとめ
牛乳パックのユニバーサルデザインについて大手牛乳メーカー明治のHPでも以下のように説明があります。
~大手牛乳メーカー明治のHP~
目の不自由な方でも他の飲料と牛乳を見分けられるように、パッケージ上部に「切り欠き(きりかき)」が付けられています。へこんだ部分のない側があけ口になっています。
明治の「おいしい牛乳」は開けやすく注ぎやすい広口キャップ付き容器を採用し、お子様や高齢者でも持ちやすい横幅を約5mm縮めたパッケージにして使いやすさを高めています。
(https://www.meiji.co.jp/meiji-shokuiku/know/lovable-milk/milk/package/)
また、900mlの牛乳パックには直方体のような形状で、切り欠きがないため、この部分については、対策を検討中とのことです。(参考:明治HP内よくある質問(http://qa.meiji.co.jp/faq/show/1471?site_domain=default)
私たちが何気なく使っていた牛乳パックにもこのような工夫が凝らされていたと知ると、なんだか面白いですよね。
健常者の人たちが当たり前のように使っているもののなかにも、障がい者の方からすると不便なものもあると思います。
そのようなものを一つでも減らしていき、誰でも不自由なく扱えるユニバーサルデザインがもっと世の中に取り入れられることを願うばかりです。