ユニバーサルデザインをアメリカから学ぶ!考え方や活用例5選

by twistdesign

アメリカで誕生し、日本でも多く取り入れられているユニバーサルデザイン。しかし、その根底にある、平等を権利とする考え方の浸透、という面では先進国からまだまだ遅れを取っているのが現状です。
アメリカで誕生したユニバーサルデザインの歴史的背景から考察し、日本が取り入れるべき考え方や活用例をご紹介します。

■【ユニバーサルデザイン】日本とアメリカの違いとは?

日本とアメリカではユニバーサルデザインへのアプローチにおいて大きな違いがあります。

・アメリカにおけるユニバーサルデザインには歴史的背景があった

ユニバーサルデザインは、1980年代にアメリカで生まれました。アメリカで巻き起こった国民運動により、1964年にアメリカ議会で成立した「公民権法」にさかのぼります。

公民権法とは、人種や性別、宗教などの理由で就業や施設の出入りの差別を禁じたもので、のちに制定されるリハビリテーション法504条や、公正住宅修正法、ADA(アメリカ障害者法)の礎となった法律です。

その結果、人種や性別、宗教、家庭のルーツ、障害の有無などに対するあらゆる差別を禁じ、平等を謳った公民権法、ADAなど、アメリカの人権に関する法整備における大きな流れの中で、ユニバーサルデザインは誕生しました。

重要なのはユニバーサルデザイン誕生に到る大きな流れともいえる、公民権法からADAまでの法律全てが、ハード面(建築や製品等)だけを規制しているのではないと言うことです。

アメリカでは、国籍や障害の有無、宗教などを理由にサービスの提供を拒否することを禁じるのはもちろんのこと、障害があることで不利益を生じる事柄への改善対応をサービス提供者が拒むことも、法律違反となります。

例えば、公正住宅修正法の下では、外国人という理由で家主は入居を断ることができません。また、聴覚障害者が生活するうえで必要な、来客を知らせるフラッシュランプの住居への設置を家主が断ることも法律違反です。

アメリカでは建築などのハード面だけでなく、関わる人たちの無理解にも法的に規制がなされます。
その法規制こそ今日アメリカが、福祉大国であるスウェーデンやデンマークなどに並んでバリアフリー世界一位と呼ばれる所以でもあります。

・日本におけるユニバーサルデザインとは

アメリカで1985年に提唱されたユニバーサルデザインが日本に持ち込まれたのは、1990年代以降です。特に近年オリンピックの日本開催に向けて建築や製品、世界共通のマーク導入など主にハードの分野で、ユニバーサルデザイン化が叫ばれています。

その偏りこそがアメリカのユニバーサルデザインとの大きな違いです。
日本は、アメリカのユニバーサルデザイン誕生の背景にある、公民権運動からADA制定に到る流れを十分に周知することなく、ハード面への取り組みを積極的に推し進めた結果、人的サポートが希薄になるという側面が、現在浮き彫りになっています。

建築や製品でユニバーサルデザインを推奨している一方で、日本には、アメリカのように障害者が求める「効果的なコミュニケーション」の明確化がなされていません。つまり、障害者が求める効果的なコミュニケーションやサービス提供が行われなくても、日本では法律上、違反行為とは言えないのです。

ユニバーサルデザインが言葉として独り歩きするのではなく、社会で有効に機能するよう、ユニバーサルデザイン誕生の歴史的背景や、ユニバーサルサービスについての日本国民の理解が、今求められています。

■アメリカのユニバーサルデザイン活用例5選

ユニバーサルデザイン発祥のアメリカではどのような活用例があるのでしょうか?

・街中で多く見かけるピクトグラム

公衆トイレなどでも多く見られるピクトグラム(絵文字)は、世界中の観光地で積極的に採用されています。ピクトグラムは文字が読めない小さな子どもや、海外からの観光客にもわかりやすい表示が可能です。

また、青、赤、黒からの白抜き表示は、色を見分けにくい人にとって判別しやすいユニバーサルカラーデザインにもなっています。多様な人種が暮らすアメリカでは、特別な場所でなくても地下鉄のホームや公共施設などで、さまざまなピクトグラムを目にすることができます。

・車椅子でも遊べる公園

サンフランシスコのゴールデンゲートパークは広大な公園で、観光名所としても有名です。観光客がわかりやすい案内表示はもちろんのこと、バリアフリーな園内は多様性を受け入れ、尊重しています。

砂場や水飲み場が車椅子でも使える仕様になっていたり、スロープを多用していたり、ユニバーサルデザインが随所で見受けられます。アメリカでは車椅子の人が街にいることは、なんら特別なことではありません。
公園などの公共の施設でも街と同様に、車椅子の人が思い思いに楽しむ姿がみられます。

・種類が違うブランコ

アメリカでは、子どもが遊ぶ環境にもユニバーサルデザインが採用されています。さまざまな背の高さの子どもが使えるよう、違う長さのロープを使ったブランコや、足が不自由でも足を置く場所があるブランコがあり、皆が同じ遊びを楽しめる工夫がされています。

身体的な事情をもった子どもが疎外感を持つことなく、他の子と同じように思い切り遊べるよう、大人ができる努力や改善を止めないことは、日本の教育現場でも大切です。小さいうちから多様性を当然のこととして受け入れる環境を整えることで、その子どもたちが大人になった時に、さまざまな人が住みよい社会が実現するでしょう。

・階段、エレベーター、エスカレーターの3点セット

日本の施設では多くの場合、階段、エスカレーター、エレベーターはそれぞれ離れた場所に設置されています。当たり前のようにその状況を受け入れてきましたが、バリアフリー先進国であるアメリカやスウェーデン、デンマークなどでは、すでにそこを問題視し、対策がとられてきました。

特にデンマークでは多くの公共施設で同一方向へ向かう階段、エレベーター、エスカレーターが3つまとめて同じ場所に設置されています。この設置方法であれば、身体的なことを理由に同行者から離れる必要がなくなり、サポートする側もされる側も気を使わずに一緒に外出が可能です。

観光大国であるデンマークやアメリカは、バリアフリーツアーも人気で、移動の際に同行者と同じ動線になるよう配慮されるなど、旅行を楽しむために必要なサポートも考えられています。

・自転車やベビーカーなどモビリティも畳まず乗れる公共交通機関

日本では自転車は折り畳むか、分解して輪行袋に入れなければ、バスや電車などの公共の交通機関に持ち込むことができません。この風潮は、満員電車内でベビーカーを畳む、畳まない、のトラブルに発展する場合もあります。

アメリカやドイツ、デンマークなどでは電車にそのまま自転車などを乗せることが可能です。車両によっては車椅子、ベビーカー、自転車を固定する器具が取り付けられており、安全性も確保されています。

もちろんベビーカーや車椅子を畳まずに乗り込んでも、周囲の目線は寛容です。バスや電車だけでなく、観光目的のロープウェイでも同じ対応がされている場所があります。

■日本でも急がれるユニバーサルサービス

日本は、ハード面での努力が一定の効果を上げています。しかし、一人で解決することを前提としたハードの充実のみが先走れば、事情を抱えた人の孤立を深めかねません。日本がユニバーサルデザインにおいて本当の先進国となるためには、人的サポートの充実と、人々の権利を守るための法規制について議論を進める必要があるでしょう。

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