北欧スタイル、インダストリアルスタイル、ブルックリンスタイルなど、インテリアのスタイルってたくさんありますよね。その中でも「ミッドセンチュリー」というスタイルを聞いたことはありますか?
ミッドセンチュリーとはその言葉通り、世紀の半ば1940年~1960年の間に花開いた独自のインテリアスタイルのこと。長く続いた戦争が終わり、明るい未来に人々の目が向けられ始めた時代です。
特徴としては、成型合板や繊維強化プラスチック(FRP)など新しい素材や技術によってなし得た有機的な曲線、明るいポップなカラーなどです。そのモダンでスタイリッシュなデザインは時代を超え、今なお愛され続けています。
ミッドセンチュリーというモダンデザインのムーヴメントはアメリカを中心に発展したため、アメリカだけのものだと思われがちです。しかし、ミッドセンチュリーを支えたデザイナーが活躍したのはアメリカだけではありません。
今回はアメリカ以外の国も含めたミッドセンチュリーの代表的なデザイナーを紹介します。
ミッドセンチュリーのデザイナー①:チャールズ&レイ・イームズ夫妻(1907-1978、1912-1988 アメリカ)
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ミッドセンチュリーのデザイナーといえば、一番に名前が出てくるのがイームズ夫妻です。日本でも1995年に雑誌「BRUTUS」にて「イームズ 未来の家具」で特集されてからイームズブームが起こりました。
この2人のすごいところは、とにかくマルチな才能にあふれていたことです。家具デザインだけでなく、グラフィックデザイン、プロダクトデザイン、建築デザイン、さらに写真や映像もプロとして撮影するというマルチぶり。そのどれもが革命的なデザインでミッドセンチュリー期のアメリカに強烈な衝撃をあたえました。後のデザイン全般に影響を及ぼしたと言っても過言ではありません。
夫妻は同じ大学院の教授同士という立場で出会い結婚。ともに感性が合いベストパートナーであった夫妻は、チャールズが71歳で亡くなるまで次々と革命的なデザインを発表していきました。
第二次世界大戦中に成形合板を開発し、戦後はその技術を活かして家具の製品化に乗り出します。そこから名作家具が次々と誕生。さらに家具雑誌の編集などにも精力的に取り組み、「デザイン重視の家庭用家具」を注目させたのです。人々はそれらを〝優雅の象徴″としてもてはやしました。
現在でもハーマンミラー社によってイームズデザインの家具は「世界的に評価の高い名作家具」として販売され続けています。
代表作
- プライスウッド・チェア
- ラ・シェーズ
- プラスティック・シェルチェア
- ワイヤーメッシュ・チェア
- ラウンジチェア&オットマン
- アルミナム・グループ
ミッドセンチュリーのデザイナー②:ジョージ・ネルソン(1908-1986 アメリカ)
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1908年、アメリカに生まれたジョージ・ネルソンは建築家兼グラフィックデザイナーです。イームズ夫妻と同じように多彩な才能を発揮し、幅広い分野で活躍しました。
システム家具の先駆けとなった「ストレージウォール」を発表すると、1945年に『ライフ』誌に大きく取り上げられ、家具業界に旋風を巻き起こします。それがミッドセンチュリー期を代表する家具メーカー、ハーマンミラー社の目に留まり、同社のデザインディレクターに就任。当時まだ無名だったイームズ夫妻の才能を見出してデザイナーとして採用したり、イサム・ノグチやアレキサンダー・ジラードなどを招きました。
そして小さな家庭向け家具販売店だったハーマンミラー社を「世界的な家具メーカー」へと成長させたことは現在でもなお語り継がれています。
代表作の「マシュマロチェア」は、既製品の丸いスツール座面を集めた遊び心あふれるデザインです。また彼の「ココナッツチェア」はミッドセンチュリーデザインを代表するアイコン的なチェア。二つに割ったココナッツの殻のような特徴的なデザインで、自由なポジションに座れるように考えられた革新的な設計です。その他ポップなカラーが印象的なネルソンクロックなど個性的な名作を数多く発表しています。
代表作
- ネルソン プラットフォームベンチ
- ネルソン ココナッツチェア
- ネルソン マシュマロチェア
- ネルソン スワッグ レッグデスク
- ネルソン エンドテーブル
ミッドセンチュリーのデザイナー③:アレキサンダー・ジラード(1907-1993 アメリカ)
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1907年にニューヨークで生まれたアレキサンダー・ジラードは、親交の深かったイームズ夫妻やジョージ・ネルソンとともにアメリカのミッドセンチュリームーヴメントを牽引した一人です。もともとは建築家でしたがさまざまな分野で才能を発揮し、多くの作品を残しています。
その中でも一番注目されたのはテキスタイルの分野です。チャールズ・イームズやジョージ・ネルソンによってハーマンミラー社に招かれ、1952年にテキスタイル部門を設立。1973年までデザインディレクターを務めました。そこでポップなカラーや幾何学模様、遊び心あふれるタッチのデザインを300点以上も生み出しました。
彼のセンスは「衝撃的で刺激的」と評価され、当時生まれ続けていた斬新な家具と合うテキスタイルとして人気を博したのです。
ハーマンミラー社における作品以外にもレストランのラ・フォンダ・デル・ソルや、ブラニフ航空のトータルデザインを手掛けたことでも有名です。
ミッドセンチュリーのデザイナー④:エーロ・サーリネン(1910-1961 アメリカ)
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フィンランド人であるエーロ・サーリネンはアメリカで活躍した建築家、プロダクトデザイナーです。
ミシガン洲のクランブルック美術大学に在学中にイームズ夫妻と知り合いになりました。1940年にはチャールズ・イームズとともにニューヨーク近代美術館開催の「オーガニック家具デザイン」コンペに参加し、成型合板を使ったイスや棚、机を出品し2部門で優勝しています。
代表作の「チューリップチェア」は従来のテーブル下の混乱(テーブルやイスの脚の多さによって起こる混乱状態)を解決するため、5年の歳月をかけて研究しデザインしたもの。1本で自立する脚と、花弁のような曲線を描くフォルムが花のように見えることから「チューリップチェア」と名づけられました。アメリカモダンデザインを代表する家具メーカー、Knoll(ノル)のシンボルあるとともに、ミッドセンチュリー家具の代表作でもあります。
代表作
- チューリップチェア
- ウームチェア
ミッドセンチュリーのデザイナー⑤:イサム・ノグチ(1904-1988 アメリカ)
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日系アメリカ人のイサム・ノグチは「20世紀が生んだ偉大な彫刻家」と呼ばれるほか、インテリアデザイナー、陶芸家、建築家、舞台美術家と多くの顔を持っていました。アメリカと日本を行き来しながらもパリに留学したり、世界中の美術から影響を受け自身のデザインにインスピレーションを受けてきました。
現在ノグチの作品はニューヨークのイサム・ノグチ美術館や香川県のイサム・ノグチ庭園美術館など世界中で所蔵され、その感性を身近に触れることができます。
代表作
- ノグチテーブル
- 和紙製大型ランタン「AKARI」
- 大阪万博の噴水
ミッドセンチュリーのデザイナー⑥:アルネ・ヤコブセン(1902-1971 デンマーク)
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デンマークに誕生したアルネ・ヤコブセンは、20世紀を代表する名作家具を数多く生み出したデザイナーです。建築家としも活躍し、デンマーク銀行やロイヤルホテルなども手がけました。彼の家具は現代のモダンデザインの基本ともされ、独創的な見た目に反して機能性の高さが特徴です。
最も有名な作品は「セブンチェア」で500万本以上も販売されました。1963年にルイス・モーレイの有名なヌード写真に使われたため、それ以降セブンチェアは姿勢をデッサンする肖像に多く使用されています。
またデンマーク最大手の電気機器製造会社、ラウリッツ クヌーセンのテーブルクロックデザイナーにも選任され、「ROMAN」や「LK」など人気のクロックもデザインしています。
代表作
- アントチェア
- セブンチェア
- スワンチェア
- ドロップチェア
ミッドセンチュリーのデザイナー⑦:ハンス・J・ウェグナー(1914-2007 デンマーク)
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ハンス・J・ウェグナーは、生涯で500種類以上のイスをデザインしたデンマークの家具デザイナーです。そのほとんどが名作として世界中で注目を集め、「椅子の巨匠」とまで言われました。さらにルニング賞、大阪国際デザイン賞など、優れたデザイナーに贈られるほとんどの賞を受賞しています。
20世紀のモダンデザインに多大な影響を与え、1997年には英国王立芸術院の名誉博士号を授与、作品の多くはニューヨーク近代美術館をはじめ多くの美術館に所蔵されています。
ウェグナーのイスの中でも「Yチェア」は商業的に最も成功したイスであり、また最も日本人に愛されたイスです。現在でも国内で年間5000~6000脚も販売され続けてます。
代表作
- チャイニーズチェア
- ピーコックチェア
- Yチェア
- ヴァイオレットチェア
- サークルチェア
ミッドセンチュリーのデザイナー⑧:ブルーノ・マットソン(1907-1988 スウェーデン)
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ブルーノ・マットソンはスウェーデンで5代続く家具工場の息子として生まれ、幼いころから家具職人の知識を学びました。その経験をもとに、ブルーノはイスの安楽性についての研究に没頭します。その頃ブームになっていた機能主義に影響を受けながら、座面の角度や足の高さについて徹底的に追及しました。それによって人間工学に基づいた美しいフォルムを築き上げていったのです。
座り心地が良く、シンプルなフォルムと高い機能性を持ったブルーノのイスは、瞬く間に人気となりました。代表作は1934年に発表されたラウンジチェア「EVA」。成型合板の技術が応用され、柔らかな曲線と自然な美しさが感じられます。
またブルーノは日本とも関わりの深いデザイナーです。1974年に日本に訪れ、畳と日本人の体形に合うイスをデザインするために天童木工と共同で制作に取り組みました。それが「Mシリーズ」と呼ばれるイスです。その中でも「マルガリータ」と呼ばれるソファーは最高傑作と称賛されています。
代表作
- マルガリータ
- ハイバックチェア
ミッドセンチュリーのデザイナー⑨:エゴン・アイアーマン(1904-1970 ドイツ)
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エゴン・アイアーマンは戦後ドイツの建築やデザインに多大な影響を与えた建築家、プロダクトデザイナーです。大工、石工、指物技術を経験した後、大学で建築を学びました。
ベルリンのカイザーヴェルヘルム記念教会をはじめ、国会議事堂、ドイツ領事館などを建築したことで有名です。
代表作の「アイアーマンシェルフ」はベルリンで開催された「The Growing House~家族とともに成長する家~」のエキシビジョンのために制作されました。また自身のアトリエのために制作された「アイアーマンテーブル」はミニマリズムを形にし、余計なものをそぎ落としたシンプルなデザインです。
代表作
- アイアーマンテーブル
- アイアーマンシェルフ
ミッドセンチュリーのデザイナー⑩:剣持勇(1912-1971 日本)
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剣持勇は第二次大戦後、渡辺力・柳宗理・長大作・水之江忠臣らと一緒にジャパニーズ・モダンと呼ばれるデザインの礎を創ったインテリアデザイナーです。
安く、機能性が求められるインダストリアルデザインの分野で手腕を発揮ししました。1958年に発表された積み重ねることができる「スタッキング・チェア」は今なおベストセラーです。そして代表作である「ラウンジチェア」はニューヨーク近代美術館の永久コレクションにも選ばれています。
また私たちにも馴染み深い「ヤクルト」や「ジョア」の容器も剣持のデザインです。
代表作
- スタッキングチェア
- ラウンジチェア
- ラタンチェア
最後に
今回はミッドセンチュリーというモダンデザインのムーヴメントを牽引したデザイナーを紹介しました。改めて見てみると、それぞれのマルチな才能には驚くばかりです。やはり優れたデザインというものは生活全般においてから生まれてくるものなのでしょうか。日本においてミッドセンチュリースタイルはさまざまな新しいものに押され、一時ほどの勢いがなくなったように思われますが、今一度見直してみてもらいたいすてきなインテリアスタイルです。