アールヌーボー建築は日本にも存在!9選をそれぞれの魅力とともに紹介

by twistdesign

ヨーロッパで生まれたアールヌーボー。日本の浮世絵からもインスピレーションを受けたと言われています。その後、北欧を中心に広がるアールヌーボー様式ですが、日本の建築にも採用されているのをご存じですか?そこで今回は、日本に存在するアールヌーボー建築の歴史や魅力についてご紹介します。

アールヌーボーの歴史、建築として日本に入ってきたのはいつ?

世界中で愛されるアールヌーボー様式。日本にはどのように入ってきたのでしょうか。まずはその歴史から振り返ってみましょう。

・アールヌーボーの歴史

アールヌーボーは19世紀後半、ヨーロッパで長く続いた安価な大量生産型のヴィクトリア調から脱却し、より芸術性の高い物を生み出そうとした「アーツ・アンド・クラフツ運動」が起源とされています。

ヨーロッパ各国で大きなムーブメントとなったアールヌーボーでしたが、装飾過剰で高価な様式が第一次世界大戦による価値観の変化により衰退。その後、より合理的で機能性を重視したアール・デコに流行がシフトし、価値を失ったかに見えたアールヌーボーでしたが、1960年代のアメリカにおいてそのデザインが再評価されることとなります。

現在では新古典主義からの脱却、モダニズムへの架け橋を象徴する芸術として高く評価されています。

・アールヌーボー様式の建築が日本に入ってきたのは明治時代

日本でアールヌーボー建築が取り入れられたのは、ヨーロッパでアールヌーボー流行のピークを迎える1900年代、日本で言う明治時代です。ヨーロッパ各地で巻き起こったアールヌーボーブームは、パリ万博でピークを迎えます。

万博会場でもその様式美は多く見受けられ、当時ヨーロッパで建築を学んでいた辰野金吾ら日本の芸術家たちに大きな影響を与えることになります。辰野金吾は日本でアールヌーボー様式を取り入れた建築家のひとりで、ヨーロッパから帰国したのちに発表する作品にはその影響が色濃く反映されています。

西洋文化を積極的に取り入れようとしていた明治時代の日本では、建築物に曲線的なデザインや有機物のモチーフ、鉄やガラスの装飾などを取り入れた西洋風のアールヌーボー様式が広く受け入れられました。その結果、明治時代の歴史的価値の高い日本の建物の中には、アールヌーボーが多く見られます。

日本のアールヌーボーの建築①「旧松本邸(西日本工業倶楽部)」

出典:旧松本邸公式HP

趣ある外観にうっとりしてしまう、「旧松本邸(西日本工業倶楽部)」について紹介します。

・旧松本邸(西日本工業倶楽部)の歴史

国指定重要文化財の「旧松本邸(西日本工業倶楽部)」は1912年に竣工。洋館・日本館があり、洋館の設計を辰野金吾が手掛けたことでも有名です。日本におけるアールヌーボー建築の初期作品であるとともに、最も本格的なものだと言われています。

・魅力や見どころ

建造物や家具調度品などにおいて、当時のままのアールヌーボー様式が取り入れられている例は他にはありません。また、それらの保存状態が素晴らしいため、現在でも結婚式の会場として実際に使われています。

日本のアールヌーボーの建築②「旧大阪商船」

・旧大阪商船の歴史

旧大阪商船は1917年に建築された大阪商船門司支店を修復したものです。国の登録有形文化財に指定されています。当時門司港からは海外に向けて多くの客船が出航しており、大阪商船ビルはその拠点として使われていました。

・魅力や見どころ

旧大阪商船は、門司港レトロのシンボル的な存在で、オレンジ色の外壁が美しい建物です。特徴的な八角形の塔屋、窓ガラスのデザインもみどころのひとつでしょう。

日本のアールヌーボーの建築③「和世陀(わせだ)」

・和世陀(わせだ)の歴史

和世陀は、日本のガウディの異名を持つ「梵寿綱(本名:田中俊郎)」の作品で、竣工は1983年。梵寿綱は工業製品化している近代の建築技術に疑問を投げかける作家で、機会化された物づくりに抵抗したアールヌーボーとの接点が多く感じられます。

・魅力や見どころ

見どころは、ドアにあしらわれたステンドグラスや壁面の装飾、立体的なオブジェなど、むせかえるようなアート作品の数々に囲まれた空間です。
天候や時間帯、季節などで見え方が変わる建物は何度も訪れたくなるような奥深さを感じさせます。

日本のアールヌーボーの建築④「北浜レトロビルヂング(旧桂隆産業ビル)」

出典:大阪文化財ナビ

・北浜レトロビルヂング(旧桂隆産業ビル)の歴史

1912年に竣工されたレンガ造建築で、国登録有形文化財に指定されています。
当時は事務所ビルとして、商業、業務用に使われていました。

・魅力や見どころ

近代的なコンクリートビルに囲まれたレンガ造りの外観はひと際目をひきます。内部は現在の所有者により内装にホワイトの壁、木の床、エメラルドグリーンの柱や窓枠が用いられ、家具調度品もヨーロッパから取り寄せたものを使用しているのが見どころです。

日本のアールヌーボーの建築⑤「東京駅」

・東京駅の歴史

1914年に竣工した「中央停車場」こと現在の東京駅。関東大震災でも被害を受けなかった堅牢な造りでしたが、東京の大空襲では多大な被害を受けます。その結果、戦後に大きく焼けた3階部分が撤去された状態で復元されました。
現在の建設当初のデザインである3階建ての姿は、2000年代の復元計画によるものです。

・魅力や見どころ

東京駅丸の内駅舎全体がアールヌーボー建築になっているため、いたるところで繊細で美しい装飾が確認できます。特に北ドームと南ドームの天井に見られるレリーフが見どころ。
このレリーフは、創建当初のものをできるだけ使うことで、当時の趣を再現しています。
干支のレリーフもあるので見忘れないよう、ひとつひとつ丁寧に見ていくのがおすすめです。

日本のアールヌーボーの建築⓺「日本銀行旧小樽支店金融資料館」

出典:金融資料館

・日本銀行旧小樽支店金融資料館の歴史

1912年に竣工した日本銀行旧小樽支店金融資料館は、小樽市指定有形文化財です。小樽市は昭和初期まで「北のウォール街」と呼ばれるほど銀行が立ち並ぶ街で、現在も当時の建物が多く残っていることでも有名です。
中でも日本銀行旧小樽支店は、当時日本の銀行の中で3番目に高額な建設費がかけられた建物として、ひと際存在感を放っています。

・魅力や見どころ

屋根に鉄骨を使うことで実現した吹き抜け空間は、当時では珍しい大きさで開放感が溢れています。また、カウンターは大理石作りと、現在の銀行では考えられないほどの豪華な造りが見どころです。

日本のアールヌーボーの建築⑦「大阪市中央公会堂」

出典:大阪市中央公会堂

・大阪市中央公会堂の歴史

当時としては珍しい公募による設計を行ったのが「大阪市中央公会堂」です。競わせるコンペ方式で採用されたため、若い建築家が設計しています。また、大阪市中央公会堂は、国の重要文化財に指定されています。
大阪市民の芸術の活動拠点としていまなお親しまれている建築物です。

・魅力や見どころ

正面から見た外装は、柱やアーチは特徴的でまるでフランスのオペラ座を連想させます。内装も美しく、豪華な造りはまさに芸術の発信地という趣です。
夜はライトアップされ、昼とは違った美しさを楽しめるのも魅力のひとつでしょう。

日本のアールヌーボーの建築⑧「旧唐津銀行本店」

出典:旧唐津銀行

・旧唐津銀行本店の歴史

1912年、東京駅と同時期に竣工したのが旧唐津銀行本店。東京駅竣工で多忙を極めた辰野金吾の愛弟子である、田中実が辰野イズムを受け継ぎ作られた建物です。
現在では「辰野金吾記念館」として関連する資料の展示、イベントスペースとして運営されており、常設展は無料観覧することができます。

・魅力や見どころ

特徴は、辰野のデザインを踏襲しながら田中独自のアイデアである赤レンガを採用した美しいデザインです。辰野が力を注いでいた次世代の育成が結実したのを感じられます。

日本のアールヌーボーの建築⑨「ラポルタ和泉」

・「ラポルタ和泉」の歴史

ラポルタ和泉は、1990年竣工の梵寿鋼がデザインした集合住宅です。甲州街道から住宅街への扉(ラポルタ)という意味が建物の名称に込められています。現在も住居用として使用されています。

・魅力や見どころ

魅力は、海をイメージした中庭にクジラの尾のような装飾と、さながら地中海のような趣です。
外観から引きこまれ、内部に足を踏み入れると異国の雰囲気が味わえます。

日本でも愛されるアールヌーボー

日本のアールヌーボー建築についてご紹介しました。優れた芸術や建築様式は国境を越えて影響を与え合っていることが実感できますね。この他にも多く残る明治時代以降の歴史的な建造物に、アールヌーボーの面影を探してみるのもおすすめです。

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