【デンマーク家具の特徴と歴史】
一般にデンマーク家具と聞いて思い浮かべる家具は、1940年代から60年代の約30年という限られた期間にデザインされたものがほとんどです。特徴としては、「シンプル」「モダン」「ナチュラル」「機能的」「実用的」などがあげられます。デンマークでは1900年代以前はオリジナルと言える家具デザインは存在していませんでした。1900年代初頭から工業的な大量生産を前提としたバウハウスに影響を受け、それが独自の進化を遂げ、木材の材質を重視し、伝統的なクラフトマンシップを維持しながら、一般市民にも手が届きやすく使いやすい家具を作ることにいたりました。
日本で紹介される北欧家具で、代表的なものはデンマークのデザイナーによるものです。デンマークの家具デザインで一番重視されていることは機能性や実用性。十分な機能や性能があることが確認されてから美しさを追求します。昔から引き継がれている高い技術と感性が、今でも世界中から高い評価を受けている理由でしょう。現代でも、その技術やデザインを受け継ぐデザイナーが輩出されています。
【デンマークの名作家具】
そんなデンマークで巨匠と呼ばれるデザイナー達によってデザインされ、今もなお愛され続けている名作家具があります。シンプルなデザインで、機能性があり、実用的な名作家具10選をデザイナーと共にご紹介させていただきます。
デンマークの名作家具10選①②
アントチェア&エッグテーブル/アルネ・ヤコブセン
出典:Pinterest
アルネ・ヤコブセンがデザインした、ミッドセンチュリーの象徴的なデンマークのチーク材を使用した、アントチェアとエッグテーブル。
アントチェアは、1951年にデンマークのノボノルディスク社の社員食堂用の椅子としてデザインされた世界初の量産型椅子です。座面、背板を1枚の3次元成型合板という高度な技術で作られた椅子は、当時の木製家具の世界に新しい風を吹き込んだデンマークの名作家具です。そのフォルムが蟻を連想させることから、「アント(蟻)チェア」の愛称を持ち、日本ではアリンコチェアとも呼ばれています。
アリンコチェアに合わせて、天板が卵形のエッグテーブルもデザインされました。このテーブルは小ぶりながらも大胆なデザインで、アリンコチェアとマッチするように3本脚です。フリッツ・ハンセン社より発売され、1952年から1960年までの8年間だけ製造されました。現在はリプロダクト版がお手頃な値段で販売されています。
デンマークの名作家具10選③
セブンチェア/アルネ・ヤコブセン
出典:Pinterest
アルネ・ヤコブセンがデザインしたアントチェアの後継として1955年に発表されて以来、現在までに全世界で700万台以上販売されており、また、世界で一番売れているスタッキングチェアとして知られる「セブンチェア」。日本にでも、オフィス、図書館や美術館などの公共施設などでもよく使われているデンマークの名作家具です。
デンマークの名作家具10選④
スワンチェア
出典:Pinterest
スワンチェアは、1958年にデンマーク、コペンハーゲンにあるSASロイヤルのロビーおよびレセプションエリアのために、エッグチェアと共にアルネ・ヤコブセンによってデザインされました。スワン(白鳥)が羽を広げようとするイメージで、直線がなく、曲線のみの貝殻形状は圧迫感がない優しいデザインの名作家具です。
アルネ・ヤコブセン (Arne Emil Jacobsen) 1902〜1971
世界で最も有名な北欧デザイナーと言っても過言ではないアルネ・ヤコブセン。ヤコブセンは、北欧デンマークのモダニズムをリードした建築家兼家具デザイナーです。1920年代から70年代にかけて多くの有名建築をデザインしました。また、上記で紹介した「アントチェア」「エッグテーブル」「セブンチェア」「スワンチェア」など、今でも人々に愛される機能的で、デザインも美しい、北欧を代表する家具を生み出したデザイナーです。
デンマークの名作家具10選⑤
Yチェア/ハンス・J・ウェグナー
出典:Pinterest
ハンス・J・ウェグナーによる名作Yチェア。1950年の発表以来、これまでに世界中で70万脚以上が出荷されていて、数多くあるウェグナーの椅子の中で最も売れたと言われる椅子です。ゆったりとした奥行きのある座面と背から肘まで緩やかに回り込むようなラインの肘掛けが特徴で、ダイニングでもくつろげるチェアとして愛され続けています。中国の明朝時代の椅子をヒントにデザインされ、細部を更に突き詰めることで誕生したチェアで、機械生産がしやすい形状のため、工業デザインとしても優れています。背板の合板がY字型なので、Yチェアと呼ばれています。
デンマークの名作家具10選⑥
CH339 ダイニングテーブル/ハンス・J・ウェグナー
出典:Pinterest
1962年にデザインされたハンス J. ウェグナーの代表作の一つ、ダイニングテーブルCH339。天板に伸長板を挿入することで、伸長することもできる実用的なテーブルです。楕円の曲線美とシンプルな構造が、これぞデンマーク家具というデザインです。デザイン性だけではなく機能性、耐久性にも大変優れていて、長年同じコンディションのまま使い続けることができるデンマークの名作家具です。
ハンス・J・ウェグナー (Hans Jørgensen Wegner) 1914〜2007
ハンス・J・ウェグナーは、13歳から家具職人の下で修行を始め、17歳の時には指物師のマイスターの資格を取得しました。20歳のまで家具職人の下で修行しながら、国立産業研究所で木材についての研究もしていたという努力家。23歳の時デンマークのコペンハーゲン美術工芸学校に入学し家具設計を学びました。妥協のない品質へのこだわり溢れる多くの家具を創り出したウェグナーは、生涯で500種類以上ものチェアをデザインした20世紀の北欧を代表するデザイナーの一人です。彼のデザインした家具は今でも生産され、日本でも多くの人々に愛され続けています。
デンマークの名作家具10選⑦
J39 シェーカーチェア/ボーエ・モーエンセン
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デンマークで「庶民のデザイナー」として知られるボーエ・モーエンセンによる、素材を生かしたシンプルなデザインが特徴の「J39 シェーカーチェア」。モーエンセンは、人々の住宅事情や消費意識などに合わせた家具を追求し、一般庶民が購入できる価格でありながら、質の高い家具を創ることを使命としていました。「J39 シェーカーチェア」の背もたれには、大きく湾曲させた幅広の板を使い、すっきりしたデザインの上、生産性の高い椅子です。デンマークでは「庶民の椅子」と呼ばれ、現在でも国民的な椅子として親しまれている名作家具です。
デンマークの名作家具10選⑧
C18 シェーカーダイニングテーブル/ボーエ・モーエンセン
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1947年、ボーエ・モーエンセンがFDBモブラーの家具部門責任者だったころにデザインしたC18ダイニングテーブル。伝統的なシェーカー様式のテーブルから着想を得たH型の脚で、 脚が角に無いので、どの位置にも椅子を置くことができ、大人数で囲むのに適しています。 また椅子に座る際に脚が邪魔にならないため出入りがしやすく、車椅子の納まりも良いため、ユニバーサルデザイン性の高さにも注目が集まっているデンマークの名作家具です。
ボーエ・モーエンセン(Børge Mogensen)1914~1972
デンマークで「庶民のデザイナー」として知られるボーエ・モーエンセンは、16歳で木工職人に弟子入りし、20歳で木工マイスターの資格を得ました。22歳でコペンハーゲン美術工芸学校に入学し、本格的に家具デザインを学びます。その頃学校で仲が良くなり長年交流を持つのが次に紹介するハンスJ.ウェグナーです。また、美術工芸学校を卒後したのち進学した、デンマーク王立アカデミー家具科では、コーア・クリントに師事し、様々な家具の応用や数学的アプローチに基づく家具デザインの方法論を学びます。1942年には、28歳にしてFDBモブラー家具デザイン室の責任者に抜擢されました。
デンマークの名作家具10選⑨
パントンチェア/ヴェルナー・パントン
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現在ではミッドセンチュリーデザインの象徴ともいわれるヴェルナー・パントンによる名作パントンチェア。 パントン自身の名を冠したパントンチェアの、 安く生産できるパリエステル樹脂の一体成型という画期的なアイデアと、可塑性の素材でなければ成しえない、流れるような究極のフォルムは、発表されるやいなや世界中で大絶賛を受けました。そして、その時代ごとに、最も優れた素材を用いるという彼のアイデアのもと、今でも新しい素材をもって生まれ変わり続けているデンマークの名作家具です。
ヴェルナー・パントン(Verner Panton) 1926~1998
デンマーク近代家具デザインの「異端児」ヴェルナー・パントン。独特の色彩構成と近未来的な空間形成は1960~1970年代のデザイン界に大きな影響を与えました。21歳からコペンハーゲンのデンマーク王立芸術アカデミー建築を専攻した後、当時の北欧デザイン界のトップであったアルネ・ヤコブセンの建築事務所で働き腕を磨きます。2年で退所した後は、3年間ほどヨーロッパ各地を放浪し、その後、1955年に若干29歳という若さで自身の建築デザイン事務所を設立します。パントンは家具の概念を覆す斬新な家具やインテリアを次々と発表しました。
デンマークの名作家具10選⑩
ダイニングテーブルPK54/ポール・ケアホルム
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円形のダイニングテーブルPK54は、ポール・ケアホルムの代表的なダイニングテーブルです。ケアホルム夫人であるハンナ・ケアホルムが自邸のダイニングで使うためにデザインしたダイニングチェアのPK9と合わせて1963年に作られました。天板は正円、脚は4つの正方形を組み合わせたもので、とてもシンプルな構造です。また、天板は石、ベースはスチールで、対照的な形と素材が組み合わさり、現代的な印象を与えます。さらに、このテーブルの大きな特徴として、テーブルの大きさを拡張させる木製のパーツがあります。大理石と木の組み合わせは、新しい表情を生み、大人数で使用することを可能にします。
ポール・ケアホルム(Poul Kjaerholm)1929~1980
シャープで直線的な作品で知られるポール・ケアホルムは、家具職人としての修業した後、コペンハーゲン工芸学校で家具デザインを学びました。ケアホルムは、当時から建築素材に強い関心を持っており、家具の素材としてはまだ一般的ではなかったスチール素材も、木などと同様、芸術的な繊細さをもつ天然素材であると考えていました。卒業後はフリッツ・ハンセン社に約1年間勤め、その間に重要な椅子のプロトタイプを数多くデザインしました。1955年より家具メーカーのアイヴィン・コル・クリステンセン社との共働し、その協力は1980年にケアホルムが51歳の若さで亡くなるまで続きました。
【おわりに】
ご紹介した椅子やテーブル以外にも、まだ数多くの名作家具があります。もし「デンマークの名作家具」に興味を持っていただけましたなら、是非ともご自分でさらに調べてみてください。ご自分が好きな、シンプルかつ美しいデンマークの名作家具がきっと見つかることでしょう。