環境デザインとは?環境デザインに求めること・事例もご紹介

by twistdesign

近年では大学や高校などの教育機関で「環境デザイン学科」「環境デザインコース」など、「環境デザイン」を学べる機会が増えており、現代、そしてこれからの社会にとって重要なデザインであるということがわかります。世の中には「デザイン」とつく言葉が溢れていますが、「環境デザイン」とは一体どのようなデザインを指すのでしょうか。この記事では環境デザインについて詳しく解説をしていきます。

環境デザインとは?

簡単に言うと私たちの身の回りに存在するモノや建物、町並み、都市など私たちを取り囲む環境をデザインすること、また、その環境に配慮したデザインをすることです。環境デザインは家具、照明などのインテリア、それらを囲む住宅・ビルなどの建築、さらに外側にある庭・公園・街並・都市まで、幅広い範囲がデザインの対象となります。このようにデザインの範囲が広い環境デザインはデザインの分野の一つとしてではなく、デザインの根本となる考え方を指すものであるとも言えます。

環境デザインにはどの様な分野があるの?

<空間をデザインする分野>

建築デザイン・インテリアデザイン・照明デザイン・ランドスケープデザイン(公園・広場など公共空間のデザイン)・都市デザイン・都市環境デザイン・景観デザインなど

<モノをデザインする分野>

プロダクトデザイン・クラフトデザインなど

<触覚に基づく(ビジュアル)デザイン分野>

WEBデザイン・グラフィックデザイン(出版・パッケージ・広告)など

<聴覚に基づく(サウンド)デザイン分野>

音響デザインなど

<触覚に基づく(ハプティック)デザイン分野>

グラフィックデザイン・インテリアデザインなど

これらをすべてまとめて「環境デザイン」と呼んでいます。

 

環境デザインに求められることは?

では、環境デザインに求められることとはいったいどのようなものなのでしょうか。

①環境を理解して守り、その環境を未来まで持続することが可能なデザインであること

空間デザインやモノのデザインが中心だった20世紀には生産と消費が増えたことにより排出物が増えて環境に負担を与えたり、大量消費によって化石燃料などのエネルギーが不足状態になるなど、その環境を持続することが不可能な状態となりました。

21世紀はその反省を踏まえ、環境を重視した時代へと変わっていきました。エネルギーは限りある資源の消費量を削減する省エネの推進、温室効果ガスを排出せず環境に負担を与えない太陽光・風力・地熱発電などの再生可能エネルギーへの移行、廃棄処理も埋めるだけでは限界が来るのでリサイクルなどゴミを減らす手段を考えるというように、私たちがこの先も持続していける環境が必要です。

つまり、現在にとってよい環境であるとともに、その環境が未来まで持続可能である環境デザインが必要だということです。「エコデザイン」はそのうちの一つに挙げることができます。

 

②環境デザインは共存する上で生まれるあらゆる「関係」もデザインすること

環境の主体となるもの(人間・生物)とモノ、コト、空間といった環境構成要素が共に存続する上で、お互いが最適な関係を築けるように調整し、成り立たせるようデザインするのも環境デザインの大切なことの一つです。

人間と自然の関係で言うと、人間には快適であっても自然にとって負担がかかるデザインであれば地球環境を悪くする結果になるので、人間と自然の関係をバランスよく保つようデザインすることが大切です。また、人と人の関係であれば、人種や文化、性別、障害の有無にかかわらず、誰もが平等な待遇を受けられるようにデザインすることが必要です。

双方のよい関係を作る(デザインする)ことは、環境をデザインすることにもなるのです。
人と人の社会的な関係のデザインとして「ユニバーサルデザイン」などが挙げられます。

 

③質と美、心地の良い快適な環境を追求する

環境デザインには人や生物が安全で健康に暮らしていくための生存のための環境と、人間が生活する上で便利で効率よく物事をすすめることに役立つ機能環境と人間の暮らしによろこびや充実感、満足感を与える快適環境があります。

過去には機能環境が重視されていましたが、そのために環境を不安定で危険な状態にさせる結果をもたらしました。現在の環境を重視した時代では、質の良いもの、美しもの、人を金銭面というよりは心を豊かにさせてくれる住み心地の良い快適な環境を目指すことが必要になっています。「プロダクトデザイン」などは、これらを追求したデザインであるといえます。

 

④環境を守り、育てるようなデザインをすることも必要

新しいものを「つくる」(デザインする)ことにより、環境に新たな価値を与える以外にも、今の環境に新たな価値を見つけ、その環境を守るためにデザインすること(例:文化財保存など)や、今現在の環境にはさほど価値がないが、改善をすることで高い価値を生み出せるよう、デザインによって「育てる」こと(例:中古物件のリノベーション)も、これからの環境デザインで重視しなければいけません。これらは「リ・デザイン」などが該当します。

 

 

身近にある環境デザインの実例

環境への負担を減らし、未来に持続可能な環境デザインの実例
「「Allbirds(オールバーズ)ツリー」

 


出典:amazon

カーボンフットプリント(ここでは温室効果ガスのことを指している)ゼロを目指すという、アメリカのサンフランシスコで誕生したシューズブランド「Allbirds(オールバーズ)」のスニーカー「ツリー」に使用されている素材は、主にユーカリの繊維からできています。このユーカリからできるオールバーズ独自の繊維は、肥料や水の使用料も従来の素材よりもはるかに少なくてすみ、CO2排出量も50%削減できる、地球環境を持続可能にしてくれる素材です。シルクのように肌触りがよく、通気性もすぐれています。

その他、靴ひもはペットボトルからリサイクルして作り、インソールのクッション性を高めるためにヒマシ油を使用、梱包に使われる段ボールも90%リサイクルされたものを使用するなど、天然の素材を利用し、破棄した時に有害物を出すことなく土にかえる、地球に優しくサステナブルな(地球環境を維持可能なものにする)シューズです。

また、天然素材の長所を最大限に活かして細部まで設計されているため、機能性にもたいへん優れ、丈夫で快適で最高のパフォーマンスを発揮できるランニングシューズとなっています。

 

 

環境、隣人、地域との「関係」をデザインする環境デザインの事例
「里山長屋」


出典:ビオフォルム環境デザイン室

人と自然がともに豊かになる関係を築けるような「山里」と、ご近所付き合いが盛んで人と人の関係が豊かだった昔の「長屋」をイメージし、4世帯が事業主となって集合住宅を建築して共同生活を始めるという、コーポラティブ形式による、コレクティブハウス・プロジェクトとして、環境にやさしい「地産地消」の家づくりに取り組みました。「地産地消」は地元の木材(生産物)を使って家をつくること(消費すること)で、環境にやさしい家づくりはもちろんのこと、地元の森や産業が活性化され、遠方から材木を輸送するのにかかる費用やエネルギーを節約できるという利点があります。その他も、土壁を利用したりと環境に配慮したあらゆる技術を取り入れて建築されています。

また、長屋には4世帯の家族みんなが利用できるコモンハウスというスペースを備えています。これによって、各世帯の住まいのプライバシーは保たれつつも、住人同士のコミュニケーションを育むことができます。

「環境」と「人」と「地域」、この3つの関係をうまく作り出した環境デザインと言えるでしょう。

 

 

質と美、心地の良い快適な環境を追求する環境デザインの事例
「CITIZEN L(シチズン エル)」


出典:楽天市場

シチズンは地球環境や人、社会、地域に配慮した「エシカル」なものづくりと、太陽光や室内光など光を電気にかえて時計を動かす「光発電エコ・ドライブ」を全モデルに搭載した、新感覚のラグジュアリーで美しいウォッチ「(シチズンエル」というブランドを立ち上げました。

シチズンエルは文字盤を飾るダイヤに、スワロフスキーが開発した、天然ダイヤと変わらない質の人造ダイヤモンド「スワロフスキー・クリエイティッドダイヤモンドを使用し、天然のダイヤモンドを採掘する上での環境や安全、労働基準などを考慮しています。
また、バンドの素材にも環境への配慮がなされています。パイナップルの繊維からつくられた天然素材「ピニャテックス」を使用しており、繊維が取り除かれて残った部分は肥料や燃料として使用されています。他にも「エコペット」という、ペットボトルを溶かして再生したポリエステル繊維は、石油を原料とするものよりもの排出量を減らすことができます。

パケージもゴミとして捨てられず、おしゃれで他にも使い道があって再利用を楽しんでもらえるようなデザインの工夫がされています。(シチズンエル」はまさに「質」と「美しさ」、「快適な環境」を追求した環境デザインから生まれたと言えるでしょう。

 

 

「保存」してその価値をより引き出し活用する、「守る」環境デザイン実例
「港区郷土歴史館等複合施設(ゆかしの杜)」


出典:日本設計

日本設計の歴史的建築物改修プロジェクトの一つ、 港区郷土歴史館等複合施設(ゆかしの杜)の耐震補強・内外装改修です。この施設は公衆衛生院の建物でしたが、保存再生させて郷土歴史館や、がん在宅緩和ケア支援センター、子育て支援施設などとして新たに活用させるというプロジェクトです。

完成後に文化財指定されるため、現行法規を満たしつつも、耐震補強をし、建物の外観・内観を復元し、バイアフリー化、新しい用途としての機能の追加も行わなければなりませんでした。そこで大切なのは既存部分に手を加える時、元通りに「修復」をするのか新しく機能を加えるのか(改修)の区別をしっかりとし、改修する範囲は最小限にするという、もとの歴史ある文化財の価値を「守る」ことに重点を置きつつ、その価値をさらに最小限の範囲内で手を加えて引き出し、活用するということです。

港区郷土歴史館等複合施設(ゆかしの杜)は、昔の建物の外観や内観を見事に蘇らせ、耐震補強とバイアフリー化、さらには新しい複合施設としての活用ができる建物へと再生されました。歴史的建造物としての価値を損なうことなく、さらにその価値を活用できる、それこそが、環境デザインの理念がいきている、「守る」デザイン事例であると言えます。

 

 

リノベーションでさらなる価値を生み出した、環境を「育てる」デザイン実例
「okatteにしおぎ」


出典:シェアする暮らしのポータルサイト

東京の西荻窪にある有料会員制の「まちのシェアキッチン&リビング」である「okatteにしおぎ」。二階は三つの個室があるシェアハウスになっています。

もとはツーバイフォー(2×4)工法によって建てられた住宅を「食」をテーマとした地域のコミュニケーションの場となるよう、「地域のコモンキッチン」というコンセプトのもと、改装と増築をしました。以前居間とダイニング、キッチンであったスペースは集会場やイベントスペースとして生まれ変わり、さらに10坪ほどを増築し、多機能なキッチンスペースとなっています。内装用に使用する木材は「東京の木」で地産地消をし、増築部分の屋根にはハーブを植えて断熱性能の強化を計るなど、環境に配慮したデザインです。

このように、元は普通の住宅であった物件をリノベーションによって地域のコミュニケーションの場やシェアハウスへと新たな価値のあるものへと育てることも環境デザインの重要な役割となっています。

 

まとめ

「環境デザイン」とは広い範囲のデザイン分野をまとめて示すものであり、また、これらのデザインのあり方を示すものであります。
つまり「環境デザイン」とは、「デザイン」は自分たちを取り巻く「環境」のことをよく知り、理解してデザインし、その「環境」をよりよい状態に導いていくことを目標とするべきだという考えを示すものでもあります。デザイナーは「環境」の中にどのような価値を生み出し、どのような価値を残し、どのような価値を育てるべきかを問いながら、その答えをデザインにすることが必要ではないでしょうか。

 

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